採用市場では「ブルーカラーの年収が上がっている」という話をよく耳にするようになりました。タクシー運転手が月40万円以上を稼ぐ、製造業の未経験者が高い初任給で入社する、といった話題もSNSやニュースで目立ちます。一方で「本当に持続する動きなのか」「自社の採用にどう活かせばいいのか」と疑問を持つ採用担当者・経営者も多いはずです。本記事では、公表されている調査データや取材事例をもとに、ブルーカラーの年収の実態と、採用戦略として押さえておきたい視点を整理します。
ブルーカラーの年収は本当に上がっているのか
大手人材研究機関の研究員による分析によると、国が毎年公表している職種別の統計をもとに直近5年間の年収変化率を比較すると、上位には現場系の職種が集中しているといいます。特にタクシー運転者は変化率が最も高く、5年間で100万円以上年収が上昇したとされています。ただし同分析では、コロナ禍で仕事が減った時期からの反動という側面もあると補足されています。
同じ分析では、外勤事務従事者(ガス・電気などのメーター点検・修理を行う職種)が36.3%の変化率、建設躯体工事従事者(型枠大工など)も高い上昇率を示したとされています。これらの職種は有効求人倍率も高く、平均が1.2倍程度とされる中で、外勤事務従事者では5〜6倍の水準になっているとの指摘もあります。金属技術者や修理・組み立て関係のものづくり職種も、同分析によると5年間で約20%の上昇が見られたとされています。
一方で全職種平均の年収変化率は、同分析によると5年間で8%程度とされ、ホワイトカラーの多くはこの平均並みの伸びにとどまるとされています。同じ期間のインフレ率は8.5%程度とされており、実質的には賃金の伸びが追いついていない計算になります。ホワイトカラーの中で最も人数の多い「総合事務員」に限ると、変化率は7%と平均を下回っているとされています。
同分析によると、建設躯体工事従事者の年収は約490万円となり、人数の多い総合事務員(約460万円)を上回ったとされています。5年前はホワイトカラーの方が高かったため、変化率だけでなく年収の絶対額でも逆転が起きたことになります。
タクシー運転手の実例に見る現場のリアル
経済メディアの取材では、都内のタクシー会社で働くドライバーへのインタビューが紹介されています。
- 前職が警察官だったドライバーは、月収が10万円以上増えたと話している
- 前職が自動車メーカー勤務だったドライバーは、収入が前職の1.5倍程度になり、月40万〜50万円で安定していると話している
- 新卒でタクシー業界に入ったドライバーは、月30万〜40万円を目安に働いていると話している
完全歩合に近い給与体系のため、働き方や工夫が収入に直結しやすい点が特徴として語られています。同じ取材では、新卒だけを集めた営業所を作るなど定着のためのコミュニティづくりに取り組む例も紹介されていますが、それでも入社後2〜3か月で離職する人が2割程度いるとも指摘されています。「稼げる仕事=誰にでも合う仕事」ではない実態も見えてきます。
なぜブルーカラーの年収・賃金が上がるのか
大手人材研究機関の分析では、賃金は基本的に需要と供給のバランスで決まるとされています。働き手が足りない職種ほど賃金が上がりやすく、逆に人が集まりやすい職種では上がりにくいという整理です。
厚生労働省「令和6年版労働経済の分析」によると、日本では人手不足の度合いを示す欠員率が1%上昇すると、賃金は1.54%上昇する傾向があるとされています。同じ分析ではアメリカの場合、欠員率1%上昇に対する賃金上昇は0.45%程度とされ、日本の方が人手不足に対する賃金の反応が大きいと指摘されています。厚労省自身も、企業が「追い込まれて」賃金を上げている側面があると分析しています。
現業職の中でも進む二極化
現場職なら何でも賃金が上がっているわけではない点は、採用戦略を考える上で重要です。同じ「人手不足」でも、賃金が上がりやすい職種と上がりにくい職種があります。
- 市場価格で賃金が決まる職種(タクシー、建設、製造など)
- 公定価格の影響を受ける職種(医療・介護・学校教員・公務員など)
市場価格で決まる職種は上がりやすい
市場の需給がそのまま反映されやすいため、前述のタクシーや建設、ものづくり系の職種は上昇率が高くなりやすいとされています。
公定価格の職種は上がりにくい
大手人材研究機関の分析によると、医療・介護・学校教員などの分野は上昇率が低く、小中高教員はほぼゼロ、医師はマイナス8.5%(勤務医中心で絶対額自体は高い水準)とされています。看護師も約5%程度の上昇にとどまり、介護職員は約350万円から約360万円へとほぼ横ばいだったと分析されています。行政が価格を決める領域は、インフレや人手不足のスピードに賃金が追いつきにくい構造だと指摘されています。
この結果として、資格を取った介護福祉士が数年で離職し別業種に転職する例や、保育士を辞めてベビーシッターに転じる例が取材で語られています。同じ分析では、保育士の給与が上がりにくい一方、ベビーシッターは市場価格のため時給が上がりやすく、短時間の稼働で同等の収入を得られるケースが紹介されています。
高卒採用シフトという構造変化
大手人材研究機関の分析によると、大学卒を採用しない企業の数はこの15年で倍程度に増えているとされ、特に中小企業では19%から24%に増加したとされています。一方で高校卒を採用する企業の数は約1.5倍(30%台から46%程度)に増えているとされ、大卒採用と高卒採用を行う企業の差が縮まってきていると分析されています。工業高校に限ると、求人倍率は約20倍に達しているとの分析もあり、高校卒業後の就職者のうち約4割がものづくりの現場に、約15%が建設現場に就くとされています。
厚生労働省の取りまとめ(令和7年3月末現在)によると、2025年3月卒業の高校生の求人倍率は4.10倍となり、経済メディアでも過去最高と報じられました。
ただし報道は、この数字の背景に注意を促しています。同取りまとめでは高卒求人数は約49万9000人分で、報道によるとかつての約167万人分と比べて3分の1以下に減少。高卒の求職者数も約12万2000人と、かつての約50万人から4分の1以下に減っているとされ、倍率の上昇は「企業が殺到した」のではなく「応募する若者が減った」ことによるものだと指摘されています。
ブルーカラーの年収上昇は今後も続くのか
経済メディアの報道では、大阪のあるダクト製造会社の例が紹介されています。直近3年で平均給与を15%引き上げ、未経験者の初任給は約30万円、ベテランでは年収800万円を超える場合もあるとされています。ただし担当者のコメントとして「今は20〜30代にいい待遇で来てもらうために上げている」とされ、仕事の内容や成果が評価されて上がったわけではないという点も紹介されています。
同報道は、過去にも似た「稼げる仕事」ブームがあったことを指摘しています。2000年代の介護保険開始後は「これからは介護の時代」と言われ、厚生労働省の賃金推移データによると介護の有効求人倍率は1倍台から4倍近くまで上がったとされていますが、賃金は2023年時点でも全産業平均を超えられていないとされています。2010年代の「これからはITだ」という言説も、結果としてスキルの高い人材と汎用的な人材で明暗が分かれたと振り返られています。
また、厚生労働省「令和7年版労働経済の分析」によると、現場仕事を含む社会インフラ関連職の年間所得は平均436万円、事務職を含む非インフラ職は540万円とされ、差は年間で約100万円(月8万円程度)あるとされています。しかも現場職では賃金カーブが平らで、初任給は悪くないものの、年齢が上がっても伸びにくい傾向があると指摘されています。
さらに、国内シンクタンクの分析によると、大工や職人といった現場仕事で自動化できる作業は1割未満とされる一方、事務職では6割超が自動化対象になり得るとされています。この差が「ブルーカラーは当面安全」と言われる根拠になっていますが、同分析は「今安全」と「これからも安全」は別だと注意を促しています。稼げる仕事は時期によって移り変わってきた経緯があるためです。
採用戦略として何を考えるべきか
ここまでの内容を踏まえると、採用担当者・経営者が考えるべき論点は次のように整理できます。
- 現場職の賃金上昇は事実だが、職種によって市場価格型と公定価格型で差がある
- 高卒採用シフトや工業高校の高倍率など、採用市場の構造自体が変化している
- 待遇改善が「人集めのための引き上げ」なのか「仕事の評価に基づく引き上げ」なのかを見極める必要がある
- 自動化・AI化の影響度は職種によって異なり、現時点の待遇の良さが将来も続くとは限らない
待遇改善の背景を正直に伝える
現場職の求人において、給与額だけでなく成果給の仕組みや、待遇改善の背景を具体的に説明することが、応募者の納得感につながります。SNSやショート動画で現場のリアルな声を発信する企業も増えていますが、丸投げの代行だけが正解とは限りません。内製での発信、プロと伴走しながら自社で撮影する形、フル代行での運用など、企業の体制や目的に合わせて選択肢を検討することが大切です。
定着支援もセットで設計する
取材では、入社後2〜3か月での離職が一定数見られることも紹介されています。給与面の魅力だけでなく、新卒者同士のコミュニティづくりや、勤務形態の柔軟性など、定着を後押しする仕組みも合わせて検討する価値があります。
まとめ
本記事の要点は次の3つです。
- タクシー運転者や建設躯体工事従事者など一部のブルーカラー職種は、大手人材研究機関の分析によると直近5年で年収が大きく上昇しており、ホワイトカラーの平均を上回る職種も出てきています。
- 一方で医療・介護・学校教員などの公定価格の職種は上昇率が低く、同じ「人手不足」でも賃金が上がりやすい職種と上がりにくい職種の二極化が進んでいます。
- 高卒採用シフトや工業高校の高倍率など採用市場の構造自体が変わりつつありますが、待遇改善の背景や自動化リスクを見極めた上で、採用の見せ方と定着支援をセットで設計することが重要です。
ブルーカラーの年収動向は、採用戦略を考える上で無視できないテーマになっています。自社の求人の見せ方や情報発信の方法に悩んでいる方は、まずはお気軽に無料相談からご相談ください。
